倉田わたる です。さぼりっぱなしですが、今回だけは、書き込まないと。
第97話 「幸運な男」
ブラック・ジャック全編中の最高傑作であると、信じて疑いません。
発端は、むしろ平凡です。死んだ上司になりすますために、ブラック・ジャック
に整形手術を依頼する、(野心ある)男。無論、ブラック・ジャックの手術です
から、それはもちろん、完璧なのですが、しかし、彼に出来るのは、全く同じ顔
を作るところまで。日常の立ち居振る舞いや、癖まで、本物と同じに作り替えら
れる筈がないのに、その男は、「母親」にすら、化けていることがばれない。そ
れは、何故か..
素晴らしい構成のミステリです。「ほとんど神懸かりでありながらも、人智を越
えるほどには完璧ではあり得ない」ブラック・ジャックのテクニックが、物語の
必要要件として、見事に組み込まれています。
そして、「母もの」(“奪われていた”母親への愛情を取り戻す物語)として、
むしろ淡々と、ハッピーエンドに向かって進んでいた物語が、「存在するはずの
ない入れ歯」を「息子」が発見したことによって、一気に急転回するのですが、
この最後の数頁のたたみこみは、実に劇的で、何度読み返しても、溜息が出る。
男は、ブラック・ジャックに救いを求めるが、彼は、(一見)冷たく断る。ここ
もみどころです。私は外科医であって、内科は専門じゃない。それに、立派な内
科医院の診療に割り込んでいく気も無い..ほとんど「万能の天才」とも思える、
ブラック・ジャックの、この謙虚な姿勢は、物語の冒頭で、見事な整形手術を見
せているだけに、一層、胸に染み入ります。その次のコマ。
「あんた、うまくいってたか?」
「え?」
「つまり…おふくろさんといっしょのくらし、満足したかね?」
「もちろんだ!!」
「じゃあ幸運を祈る」
全編の謎の解明とテーマが、この短い会話に凝縮されている。
そして、偽りの子と偽りの母の告白の場..
最後は、(型どおり)旅だって行く男を見送るブラック・ジャックのセリフで、
軽くおとして、しめる。
まさに、完璧な短編です。
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倉田わたる
おがわです。
BJ 第97話 「幸福な男」 出演キャラクターリスト(出演順)
スパイダー・・・・・・・・・・吹き飛ぶもの/一郎の母(偽者)の横に座る
もの
ヒョータンツギ・・・・・・・・ニュースアナウンサー
?・・・・・・・・・・・・・・・・・イラン人の男
?・・・・・・・・・・・・・・・・・天童一郎
ブラック・ジャック・・・・・ブラック・ジャック
?・・・・・・・・・・・・・・・・・一郎の母
?・・・・・・・・・・・・・・・・・イラン人の男の母
六角さん・・・・・・・・・・・・医師
?・・・・・・・・・・・・・・・・・医師
主要キャラクター総崩れ(笑)。
気がついた方教えてください。
一郎は七郎とはちょっとちがいますよね・・・
よく考えたらそんなことあるはずないだろう、というくらい無理がある
設定でありながらやはり感動してしまいます。
偽者と偽者の間に本物の愛が生まれるというお話。
普通に考えて二十ページ強のページに収まる話ではないです。
その語り口、場面展開の上手さも光る作品。
最後のBJのセリフも好きだなあ。
おがわさとし
みなさんこんにちは。金沢みやおです。
「幸運な男」
[9155] 倉田わたるさんの、思い入れを込められた、完璧な書きこみを読ん
でしまった今、私には付け加える言葉がありません。
倉田さん、グレートっす、グレート!。
付け加えがありませんので、繰り返しになりますが、私も「幸運な男」を
支持します。ええ断固支持しますとも。
これは傑作です。短編のお手本です。絶妙の構成です。私を魅了する「最後
に明かされる衝撃の事実」型の傑出した一作です。BJエピソードのマイベ
スト1…かどうかは、えーと、まだ決めていません(なぜか急に腰砕け笑)。
全部の感想文を書きながら確認を進め、慎重に検討して決めようと思って
います。
たしかに、ツッコもうと思えばいろいろあります。天童夫人の亭主は、すり
かわりに気づかなかったのか。倒産後、亭主はどうしたのか。アルバムの写
真によれば、天童一郎の姉か妹がいたようだが、それはどうしたのか。一郎
は、日本語ができず漢字も読めないはずなのによく仕事をみつけられたな。
昔の豪邸の隣に住もうというニセ夫人の感覚がわからない。倒産後、もうメ
リットもないからとっとと雲隠れすればよいのに、あてのない一郎の帰りを
待っていたというニセ夫人の行動の不自然さ(なぜにわざわざバレる危険を
犯す?)。ニセ夫人はどうやって食べていたのか?(質屋通いの売り食いだ
けでしのいでいた?働きもせずに?)。etc…。
でもこれらは、ツッコもうと思って読みなおして分かること。初めて読んだ
ときには、物語にひっぱられ、あれよあれよという間に、驚きと感動の結末
へと導かれてしまいました。
キャラクターデザインにもひとこと。
ニセ夫人(=一郎の実母の顔)と、ニセ一郎の実母(アラビア人のオニ母)
の対比が強烈です。
オニ母は、まさにオニ。ブルドック。ほぼ男。幼児虐待の冷酷暴虐な怪物。
ニセ夫人は、小柄。ネズミ(ハムスター?)。元はお金持ちの夫人で世間
しらずのお嬢様の出。控えめな一昔前の日本の慈母。
それらが、うまいぐあいにキャラクターデザインで表現されています。
はう〜。どうしてこういう絵が描けてしまうんでしょう。ホント感心します。
虫媒花です。おはようございます。
BJ第97話「幸運な男」について:
倉田さん&金沢さんが手放しで絶賛された傑作です。
おがわさんもこのように ↓ 書いておられまして・・・
> おがわです。
> 普通に考えて二十ページ強のページに収まる話ではないです。
> その語り口、場面展開の上手さも光る作品。
まさしくそのとおりで、虫媒花も同意いたします。
ストーリーが無駄なく無理なく、劇的に感動的に展開されています。
まだ読んでいらっしゃらないかたは是非・・・
すでにお読みになったかたもそれなりに・・・この機会に再読される
ことを心からお勧めいたします。
けど、これだけじゃ(この回のBJのセリフじゃありませんが)、
出番が少なすぎるので、ひと言:
「BJって、歯科はできなかったのね?」
虫媒花